『イデアの影』を読みました

 

イデアの影

イデアの影

 

 

2016年4冊目。

 

ハイペースで執筆を続ける森博嗣氏。最近、また刊行ペースが上がっているように思います。1冊読むと、別の新刊がもう出てるような。

 

中央公論新社から出版されているスカイ・クロラシリーズやヴォイド・シェイパシリーズは装丁がとても美しく、本作も同様にきれいな表紙。

 

本作はいつもの森ミステリではありません。谷崎潤一郎の没後50年のメモリアルとして企画された作品です。中央公論新社HPの言葉を借りると「―理知的でリリカル、不可思議で繊細。ガラス細工のような、森博嗣の「幻想小説」。」らしい。なので、いつもの謎解きテンションで読みたい方にとっては、これじゃない感があると思います。ちなみに、恥ずかしながら谷崎潤一郎の作品をちゃんと読んだことがありません…「細雪」の一部を国語の教科書?で読んだ記憶がある程度です。

 

幻想小説と謳っているだけのことはあり、読んでいる最中も読了後も、掴みどころのない内容でふわふわ。生と死、現実と幻想。対極にあるようで、境のない関係性。

 

印象に残った部分として、

「命というのは、あるかないかだけのものではない。ランプのように、明るく燈っているときもあれば、か弱く消えそうなときもあるだろう。ランプのオイルが人の寿命だとするなら、死に向かって減り続けるかわりに、炎や煙になって天に昇っていくのではないか。燃えることで、少しずつ命を削っているのだけれど、それは高く昇るための変換ともいえる。」

 

「神様から命をお借りして、この死というものを体験させてもらう。そんなツアーを、人生と呼ぶのだ。そう考えると、自分の身近で続いた死にも、驚いたり悲しんだりすることはない。それどころか、神様への感謝の気持ちを忘れないようにしなければならないだろう。」

 

そんなツアーを人生と呼ぶ、だそうです。ジャンルは違えど、森博嗣ワールドが全面に押し出されている感じがとても心地よかった作品。