2016年7冊目。
2012年に第25回山本周五郎賞受賞、第147回直木賞候補、第10回本屋大賞第3位と数々の注目をあびた本書。その当時わたしも読みましたが、なぜかしっくり来ず数ページで断念。それ以来、いつか読み直そうと思っておりました。そして先日、何の気なしに文庫版を読んでみると、ページをめくる手が止まらずに一気読み。
「ニューヨーク近代美術館のキュレーター、ティム・ブラウンはある日スイスの大邸宅に招かれる。そこで見たのは巨匠ルソーの名作「夢」に酷似した絵。持ち主は正しく真贋判定した者にこの絵を譲ると告げ、手がかりとなる謎の古書を読ませる。リミットは7日間。ライバルは日本人研究者・早川織絵。ルソーとピカソ、二人の天才がカンヴァスに籠めた想いとは――。」
単に絵画の謎を解くだけのミステリーではなく、謎の古書内で語られるルソーのヤドヴィガへの無償の愛、またお互いに講評対決のライバルとなった2人の主人公たちの交錯する思いなど、過去と未来でたくさんの要素が絡み合い、小気味よく書かれています。史実に基づくフィクションだと知りつつも、当時無名のアンリ・ルソーやパブロ・ピカソ、現代を生きるティムと織絵達の絵画に対するひたむきな情熱に、目頭が熱くなりました。
また、美術館のキュレーターという一般人には馴染みのない世界を、筆者のキュレーター経験から事細かに描写されている点も良かったです。
「新しい何かを創造するためには、古い何かを破壊しなければならない。他者がなんと言おうと、自分にとって、これが最高に素晴らしいと思えるものを作り出すには、そのくらいの覚悟が必要なんだ。他人の絵を蹂躙してでも、世界を敵に回しても、自分を信じる。それこそが、新時代の芸術家のあるべき姿なんだ。」
作中、新しいカンヴァスも絵具も買うことができないくらい困窮を極めていたルソーに対して、自身が描いたブルーピカソのカンヴァスを使い、上塗りして絵を描くように薦めたピカソのセリフ。よく聞く言い回しですが、新しい流れを作るにはそれ相応のパッションが求められるということを痛感させられます。
「この作品には、情熱がある。画家の情熱のすべてが。……それだけです。」
早川織絵のセリフ。この一言が全てを語っており、読んだときに電車内で不覚にもドキっとしました。芸術作品だけではなく、世間で傑作と言われる作品や物には、一切の説明は不要なんですね。わたしは未だにそのような物を目にした経験がありません。
芸術に全く縁のないわたしでも、ずいぶん前のめりに読むことができた一冊。なぜ話題となった当時に読んでおかなかったのだろうと後悔。
作中にあった知識ですが、ピカソは生涯で10万点以上の作品を描いたそうです。作品の大小や表に出てきていない作品も含めた数字でしょうが、10万点以上もあるなら無理すれば1つくらい作品が買えそうな気がする。